COLUMN No.1

はじめまして、千織です!



私たちは静岡県西部の遠州地方に工房を構える池沼織工房です。

創業から半世紀有余年、これまで機屋として生地を織り問屋に納めてきましたが、自分たちが手がけたものをみなさんに直接お届けしたいという思いから、この度オンラインストアをオープンいたしました。

「千のご縁に感謝して 千の柄を手がけ 千代に愛される織物を届ける」というこころざしをもって、ショップ名を「千織」といいます。

これまでは定番商品の中から注文を受けて生地を織ってきましたが、今後はその名前のごとく、その時々の感性を大切にして新たな生地の創出に挑戦していきたいと思います。

一点ものとまではいきませんが、その時限りの柄に出会うワクワクを皆様にも感じていただけたら幸いです。





 
 

COLUMN No.2

昔ながらの機で織る遠州木綿



静岡県西部に位置する遠州地方は、天竜川の豊かな水と温暖な気候によって、古くから綿花の産地として栄えてきました。遠州木綿の起源は、この綿花の栽培農家が副業としてはじめた手織りの綿織物であり、江戸時代の中期にまで遡ります。

明治になると、木綿商人の活躍によって販路が拡大し、遠州木綿は全国に知られるようになります。また、遠州生まれでトヨタグループの創始者である豊田佐吉氏によってシャトル織機が発明されたことで、綿織物の生産量は飛躍的に増加しました。

ちなみに、力織機は日本の繊維業に革命をもたらしただけでなく、後にその繊維機械事業が基盤となって自動車開発が行われます。つまりシャトル織機は日本が誇る技術力の原点であり、遠州はその発祥の地なのです。

こうして、国内で最も早く織物の工業化に成功した遠州は、日本三大綿織物産地の一つとなりました。

 

シャトル織機とは


みなさんは「シャトル織機」をご存知ですか? 先にも書いたように、シャトル織機は日本の繊維業に革命をもたらした画期的な織機です。近年では、コンピューター制御によって風圧や水圧を使い高速で緯糸を運ぶ「シャトルレス織機」が主流となる中、シャトル織機の良さは今ふたたび見直されてきています。

そもそも、シャトルとは経糸の間に緯糸を通すための道具で、手機と同様のシンプルな原理だからこそ「万能織機」とも呼ばれています。

生地を織るスピードはシャトルレス織機の10〜20分の1程度と、スピードにこそ限界はあるものの、全てが機械仕掛けなためにほとんどの部品が位置を微調節でき、糸の状態に合わせて織機を調整することで、極太から極細までさまざまな生地を織ることができるのです。

織機には一台一台ごとに癖があり、それを熟練工が調子合わせすることで、味わい深い織物が出来上がるのです。





 
 

COLUMN No.3

水通しについて



天然繊維である木綿は水に通すと縮む性質があります。遠州木綿も生機(きばた)の状態では長さ方向に一割ほど縮むため、届いた生地をそのまま裁断してお洋服を作ると「洗濯したら縮んじゃった!」なんてことになりかねません。

でも、世の中には綿100%でも水通しをせずに使える生地がたくさんありますよね。それはほとんどの生地が織りあがったあとで、糊抜き・漂白・染色などの工程を経て製品になっているから。様々な加工が施される中で生地はすでに縮んでいるのです。

その点、遠州木綿は生機で販売されていることが多いので、あらかじめ水通しをしなくてはなりません。

では、どうして遠州木綿は生機で流通しているのでしょうか?それは、遠州木綿の用途が多岐に渡ってきたことに関係しています。

一般的な着物用の小幅織物は、織りあがった後で加工(整理)がされ一反という単位で流通していますが、遠州木綿は着物に限らず、野良着、作務衣、寝具、資材など様々な生活の場面で使われてきた歴史があります。これらを製品化する際、それぞれの用途に合わせて都度最適な加工がなされたため、生地は未加工の状態で流通してきたのです。

千織でも以前は遠州木綿を生機で販売していましたが、近年では一般のお客様にお届けする機会が増えてきたので、私たちは2019年10月から糊抜き加工済の遠州木綿をお届けしています。※1

単糸や細い木綿糸は毛羽立ちを抑えて強度をもたせるため糸に糊をつけて織るので、糊抜き加工をすることによって木綿本来の風合いをはじめからお楽しみいただけるうえ、加工には熱湯を使うためにある程度の防縮も期待でき、遠州木綿がより親しみやすくなりました。

※1 はぎれの詰め合わせには、生機の遠州木綿が含まれています。


 

水通しの目安


先にも書いたように、糊抜き加工には熱湯を使うため、ある程度の防縮が期待できますが、繰り返しお洗濯をして使う場合や、縮みが気になる場合は水通しをお勧めいたします。

水通しが必要かどうかは、縮率を参考にしてみてください。千織の糊抜き加工済の遠州木綿の縮率は2~3%です。

例えばマスクを作る場合、布の大きさは15cm程度なので縮みは3mmほどという計算になります。
一方、着物を仕立てる場合、身頃を150cmと仮定すると3cmほど縮む計算になります。

このくらいの縮みなら問題ないという場合はそのままで、縮んでは困るという場合はあらかじめ水通しをすることをお勧めします。

 
生 機 … 未加工。織機からはずしたままの状態。経糸には糊が付いておりパリッとしている。 縮率10%程度 セール品・端布など
糊抜き … 経糸に付いた糊を落とすこと。これにより木綿本来の風合いが楽しめる。 縮率2~3%程度 生地販売
水通し … 生地を十分に縮ませること。防縮加工。 縮率0.5%程度 オプション・お誂え
地直し … 生地のゆがみを直し、布目を整えること。   お誂え
 
 

水通しの手順


水通しの手順は、「水に浸ける」「干す」「アイロンをかける」の三つで、多少手間はかかるものの誰でも簡単にできてしまいます。千織では、温度が出来るだけ下がらないように保温ボックスを使い、60℃の湯に15時間程度浸けた後に乾かすという作業を二度繰り返します。これで縮率0.5%程度にまで生地は縮みますが、はじめての作業が不安だという方に、ご家庭で作業する場合のポイントをご案内しますね。水通しの経験がある方も、是非参考にしてみてください。

■ 水に浸けるときのポイント

・まず、しっかりと縮ませるためには生地全体を十分に濡らす必要があるため、水よりも浸透率の高いぬるま湯で行うのがおすすめです。
 → 湯で作業する場合はやけどにご注意ください!
・生地はできる限り広げられるよう、量が多い場合は浴槽やタライなど広いスペースで作業すると良いですよ。
・軽く揉むようにして全体を濡らし、あとは数時間程度浸けておきましょう。
 → 繰り返しお洗濯して使うものは、一晩ほど浸けておくとより安心です。





■ 干すときのポイント

・干す際には生地をしっかりと広げて、シワを伸ばします。
・長いものは、画像のようにハンガーにかけて干すときれいに乾きます。
 → 画像では100均で購入したバスタオル用ハンガーを使用しています。





■ アイロンをかけるときのポイント

・生地が半乾きの状態でアイロンがけをすると、シワが伸びてきれいに仕上がります。
・生地目を整えるように、高温でアイロンをかけます。
・完全に乾ききってシワが取れない場合は、霧吹きで少し濡らすといいですよ!

 

水通しに関するFAQ


Q. 生地を水に浸けたら少しぬるっとしたのですが?

A. 水通しの最中、糸についた糊が溶け出して水が濁ったり、生地がぬるっとすることがありますが、品質に問題はありません。


Q. 一度に数柄購入したのですが、水通しは個別にした方がいいですか?

A. 千織の木綿は水に浸けることで色落ちしたり、他のものに色移りしたりしませんので、まとめて水通しができます。


Q. 水通しの代わりに洗濯機で洗っても良いですか?

A. 生機(きばた)の場合は糊が溶け出すことがありますが、差し支えなければ洗濯機で洗っていただいても結構です。



その他、ご質問などありましたらお気軽にお問い合わせくださいね!



 
 

COLUMN No.4

糸のおはなし



ひとくちに「遠州木綿」といっても、使う糸によって生地の表情はさまざまで、池沼織工房の商品はたくさんの糸を使い分けて織られています。手前味噌ながら、それはまさにこだわりの証拠であり、自信を持って商品をおすすめできる理由の一つでもあるのです。

ここから先は少し専門的なおはなしになりますが、あまり気構えずに読んでみてくださいね。

 

糸の種類


さて、最初のおはなしは生地の風合いを左右する糸の種類についてです。

商品名につけられた「ネップ」や「ロングスラブ」というのは、使用する糸の名前をあらわしています。それぞれの糸の特徴について簡単にご紹介してみましょう。

「ネップ」は、ところどころに節(糸の塊)があり、手で紡いだような素朴な味わいが魅力です。これは弊社の生地にとてもよく使われていますね。「スラブ」は、節の長さの異なる糸を不規則な間隔で撚ったもの。ネップよりもなだらかに糸の太さが変わり、独特の風合いが楽しめます。そして、スラブの節部分がさらに長いものを「ロングスラブ」と呼んでいます。

ほかにも、ネップとスラブを組み合わせた「ネップ&スラブ」や、糸を通常よりも強く撚ることで生地の表面にしぼが生まれる「強撚」、糸を部分的に白く染め残した「絣」などがあります。

一部ご紹介しただけでもこれだけある糸の種類ですが、これを経糸と緯糸のどちらに使うのかで生地の表情はまた変わってきます。意外と奥が深いんですよ?




 

色へのこだわり


糸の色にだって強いこだわりがあります。

作り手の立場として在庫や管理について考えると、できるだけ少ない色数で生地を織った方が効率がいいのは当たり前。例えば一部に赤を使った、AとB二種類の縞柄があったとします。どちらも同じ赤色を使えば糸の在庫は一色で済みますが、少しでも色を変えれば二色の糸在庫を持たなければなりません。

それでも池沼織工房の選択は後者。豊富な色の糸を持っているからこそできる表現やデザインがあります。この細やかなこだわりが、手にとった瞬間の感動につながるのだと信じて、これからもひと柄ひと柄、丁寧に織り続けていきたいと思います。





いろんな糸に、いろんな色。作り手はこれを巧みに使い分けて生地を織っています。けれど、こんなことが詳しく書かれたサイトはあまり見かけず、使う方からしたらあまり関係のないことなのかもしれません。

でもね、“作り手のこだわり” に触れることで、遠州木綿とより一層楽しくお付き合いいただけたらなによりです。



 
 

COLUMN No.5

遠州木綿ができるまで



遠州木綿の製造は分業で賄われています。

織物の製造というと多くの人が機織りの場面を想像するようですが、糸を仕入れてから機織りまでの間には下図に示したようにいくつもの工程を経ています。そして、各工程ごとに専門の職人がおり、それぞれ別の工場で仕事をしているので、おそらくみなさんが思っている以上にたくさんの時間と手間がかかっているのです。





では、ここから先は、普段あまり見ることができない作業の様子を覗いてみましょう。

さぁ、糸の旅のはじまり、はじまり。

 

1.綛上げ(かせあげ)


メーカーから仕入れた原糸は、染色や糊付け作業のために綛上げ屋で一定量の綛にします。綛とは、ぐるぐると束になった糸のことを指しています。束ねた糸端の処理は、後の工程で糸が絡んだり強く引っ張っても解けたりしないよう気を配りながら、すべて手作業で行います。




 

2.精錬・染色


鮮やかな手つきで束ねられた綛は染色屋へ送られます。綿糸には棉の茎や葉のカスなどの不純物が付着しているため、染色屋に届いた綛はまず熱湯で洗われます。この工程を精錬といい、棉の油分やアクを落として不純物を取り除くことで、糸にしっかりと色が染まるのです。




 

3.糊付け


機織りの際、摩擦によって糸が切れたり、毛羽立ったりするのを防ぐため、経糸に糊を付けるのが糊付け屋です。この糊は商品の品質を左右するほど後の工程に大きく影響するため、糸の種類や量、天候などを考慮して、原料となる数種類のでん粉を都度調合しています。




 

4.管巻き


糊付けされた綛は管巻き屋に運ばれ、今度は「いもくだ」へと姿を変えます。レトロな機械がカラカラと音を立てて一度動き出すと、それはすべての管巻きが終わるまで止まりません。糸が切れないよう全体に目を配りながら、常に20個ほどのいもくだを同時に巻いていくのです。




 

5.整経(せいけい)


整経とは経糸を正しく整える工程です。ここで順番を間違えると柄がおかしくなってしまうため整経屋は糸の配列が書かれた図案をもとに、いもくだを慎重に配置していきます。いもくだから引き出した糸を機械でいっきに巻き取ると、いよいよ工程も終盤に差し掛かかります。




 

6.経通し(へとおし)


経通しとは、ドロッパー・綜絖(そうこう)・筬(おさ)という三つの部品に経糸を一本一本通していく工程です。糸を通す箇所を間違えると生地に傷ができてしまうため、失敗は許されません。遠州木綿の経糸は約1,000本。この根気のいる作業を終えたら、いよいよ機織りですよ!




 

7.機織り


真っ白だった糸が、姿を変えて池沼織工房に届きました。経通しを終えた経糸を織機に乗せ、部品を決まった場所に取り付けたら、ようやく機織りのはじまりです。





ビームに巻かれた経糸をすべて織るにはおよそ一ヶ月もの時間がかかり、その間天候によって糸や織機の状態は日々変化するため、熟練工が常に機械の調子合わせをしながら織り上げているのです。





真っ白な糸が、たくさんの職人の手を渡り歩いて生地になりました。そして今度は衣類や雑貨へと姿を変え、また新たな旅が始まります。

もしどこかで遠州木綿に出逢ったら、どうか大切に使ってあげてくださいね。
 



 

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